近藤存志 1934年6月、『イラストレイテッド・ロンドン・ニュース』は、竣工間もないロンドン 動物園のペンギンプール(Penguin Pool, Regent’s Park Zoo, London, 1933-34)について 、「園内で最もピクチャレスクな一角」と表現しました。 その数年後、ニューヨーク近代美術館が「イングランドの近代建築」(‘Modern Architecture in England’, 1937)と題した展覧会を開催し、これに併せてラースロー・モホ イ=ナジ(László Moholy-Nagy, 1895-1946)によって短編映画「新建築とロンドン動物園 」(‘New Architecture and the London Zoo’, 1936)が制作されました。 建築史家ヘンリー=ラッセル・ヒッチコック(Henry-Russell Hitchcock, 1919-87)は 、「イングランドの近代建築展」の開催に際して刊行された書籍に、同展と同じ表題の論 稿を寄せて、その中で「今日、イングランドは近代建築の設計・建設活動において世界を リードしていると言っても過言ではない」と記しました。そしてさらに続けて、ロンドン 動物園のペンギンプールが「イングランドにおける近代建築の発展が世界の注目を集める きっかけとなった建造物」であること、またこの建造物によって「イングランドが、近代 建築を現代における合理的な建築のあり方として受け入れただけでなく、最高の技術と美 的創意を兼ね備えた建築の才に秀でた人びとに活躍の機会を提供していることが明らかに された」と主張しました。 ロンドン動物園で「最もピクチャレスク」な空間にして、「イングランドにおける近代 建築発展の象徴」となったペンギンたちのためのプール。—— 本発表では、「ピクチャレ スク」(the Picturesque)と「18世紀後半に源流を持つイギリス・モダニズム建築の系譜 」を手掛かりに、バーソルド・リュベトキン(Berthold Lubetkin, 1901-90)の傑作ペンギ ンプールがイギリスの美術史・建築史に占める位置に注目したいと思います。
近藤 存志(こんどう・ありゆき) 東洋大学福祉社会デザイン学部人間環境デザイン学科教授。日本学術会議連携会員。エデ ィンバラ大学大学院博士課程修了。PhD in Architecture(エディンバラ大学)。著書に『 時代精神と建築』(知泉書館)、『現代教会建築の魅力』(教文館)、Robert and James Adam, Architects of the Age of Enlightenment (Routledge)、『キリストの肖像』(教文館 )、『光と影で見る近代建築』(KADOKAWA)、『ゴシック芸術に学ぶ現代の生きかた 』(教文館)。